早く復旧させたいが、なかなか水が引かない―。台風18号の通過から一夜明けた17日午前、県内は全域で晴れ、各地で本格的な土砂除去と復旧作業が始まった。土砂が崩れ住民が避難した下水内郡栄村では、2011年の県北部地震以来、度重なる災害に、住民が疲れた表情で空を仰いだ。土砂が流入して不通となった下伊那郡泰阜村のJR飯田線、交通が寸断された上田、松本両市を結ぶ国道254号三才山(みさやま)トンネルの上田市側出入り口付近などでは作業員らが慎重に土砂の撤去を進めた。 栄村では16日に中条川上流域で起きた土砂崩れのため避難指示が出され、計20世帯54人が同村森、青倉の両公民館で一夜を過ごした。17日午前8時に避難指示が解除されると、住民は疲れた表情で自宅に戻っていった。 「やっぱり自宅は落ち着くね」。同村青倉の自宅に戻った高橋甚治さん(89)、ふささん(90)夫婦は居間でお茶を飲み、一息ついた。避難は県北部地震以来で、なかなか寝付けなかった。県北部地震で崩落した土砂が流れ出たとみられており、甚治さんは「崩れる癖のある場所なので心配だ」と話した。 土砂が流入し、1階部分が損壊した同村森の栄村森林組合事務所では17日朝から職員らが後片付けに追われた。水はおおむね引けたものの、林業資材などを扱う店舗がある1階部分は壊滅的な状態だった。職員らは泥の除去作業をするとともに、泥をかぶっていない商品を運び出していた。 県飯田建設事務所(飯田市)と下伊那郡阿智村は17日午前、台風18号で氾濫した同村伍和(ごか)の河内(こうち)川や被害を受けた村道の調査を進めた。工場の建物内に濁流が流れ込み、従業員15人が一時孤立した「タケダ化工」(阿智村伍和)には、一抱えもある岩が多量に押し寄せていた。同社の竹田則和社長(71)=阿智村伍和=は機材などが土砂に埋もれた工場内を見て「想像以上の被害。これからどうすればいいのか」と肩を落とした。 県や村の職員らは地図を基に同社の付近で被害の程度などを確認。飯田建設事務所整備課の後藤誠一郎・技術専門員は「できるだけ早く(河川の)仮復旧をし、生活に支障のないようにしたい」と話した。 下伊那郡泰阜村のJR飯田線唐笠―門島(かどしま)駅間の土砂流入現場では17日午前、JR東海や中部電力の作業員らがシャベルや小型バックホーで土砂を除去する作業をした。流入したのは飯田線胡桃(くるみ)第2トンネル南側入り口付近で、中部電力米川発電所のそば。土砂は長さ約40メートル、約160立方メートルに及んでおり、十数人の作業員らは緊張した表情で作業に当たっていた。 三才山トンネルの上田市側出入り口付近(上田市鹿教湯温泉)では17日午前も路上を水が川のように流れ、依然として大小の石が道路を覆っていた。午前8時ごろから作業員約20人が、道路に流れ込んだ大量の土砂を重機で取り除き、トラックに積んで次々に運び出した。 16日は上田市から松本市へ向かって左側の山の斜面が崩れ、土砂が道路上に数百メートルにわたって流出し、有料道路管理事務所(同)に近い鹿教湯大橋にも達した。同事務所の原明善所長(60)によると、道路の地下にある水路「暗渠(あんきょ)」が流木や大きな石で詰まった。同事務所には17日早朝から通行止めに関する問い合わせが相次ぎ、職員が対応した。原所長は「今日か明日には復旧、開通させたいが、水がなかなか引かない」と話した。(長野県、信濃毎日新聞社)
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