円相場が10日、節目の1ドル=100円を突破し、県内の運送会社や農家からは、一層の円安進行による燃料や飼料穀物などの輸入価格上昇を懸念する声が出ている。消費者には、経済の回復や収入増につながるのか見通せず、物価高への懸念も漂う。一方、個人投資家らからは、輸出企業の業績改善による景気のけん引に期待する声も。影響はプラスか、マイナスか。円相場への注目が一段と高まった。 「厳しい状況」。貸し切りバスなど約490台を運行するアルピコ交通(松本市)は燃料の軽油のさらなる値上がりを懸念する。1カ月の使用量は計約80万リットルで「1リットル当たり1円上がるだけで大きな損失」だが、他社との競争から値上げには踏み切れない。石油情報センター(東京)は、節目の1ドル=100円を突破し、円安がさらに進めば、価格が一段引き上げられる可能性もあるとみる。 トラック約170台を所有する南信貨物自動車(諏訪郡下諏訪町)も、主要取引先の製造業者の景況がまだ回復しておらず、燃料分を転嫁して輸送費値上げを頼める状況ではない。笠原隆男総務部長は「円安が進んで製造業の輸出が伸び、景況が良くなれば、値上げの余地も出てくる。今は我慢の時」と話す。 中野市のブドウ農家湯本章さん(44)は、夜間にハウス内の温度が20度程度になるよう暖房を利用。だが、重油の値上げを受けて約50アールのハウス栽培地のうち約10アールで暖房を見送った。肥料などの値上げも心配だ。「円安で製造業が得たお金が、農家にまで回ってくるのだろうか」 乳牛約130頭を育てる酪農家根橋英夫さん(57)=上伊那郡箕輪町=は、輸入トウモロコシを主原料とする配合飼料を利用。この3カ月ほどの間に1割ほど値が上がった。価格変動からの自衛や、食の安全への配慮から、飼料用のライ麦や牧草の栽培にも力を入れるが、そのために動かすトラクターの燃料費もネック。売り上げ約半分が飼料代に消える。「円安がこれ以上進めば、食品が値上がる。牛乳だって例外じゃない」 従業員数約230人でカーナビ部品など製造の電子機器製造会社(埴科郡坂城町)は、鉄などの資材価格や、火力発電増加などに伴う電気代の上昇で、経費は昨年末に比べて5~7%ほど増えた。「国内向け製品が主力なので受注増加はまだない」とするが、「円安進行で大手メーカーの業績が回復すれば仕事は増える」と、期待もある。 「ちょっと一杯飲みに行こうかなと思うことが多くなった」。長野市の個人投資家の男性(65)はこの日、市内の証券会社に勤める知人から1ドル=100円突破の連絡を受け、会社を訪ねて情報交換した。主に輸出関連会社の株式を取引。円安による業績改善に加え、株価上昇で所持する株式の価格は2倍ほどになったという。 一方、消費者は円安の影響を測りかねている。塩尻市のスーパーで米国産牛肉を品定めしていた市内のパート従業員鵜飼明美さん(35)は「値が上がれば家計に打撃がある」。できるだけ国産牛を買っているが、小学生の長女と長男が食べ盛りで輸入牛を合わせて使うこともあるからだ。松本市の主婦岩佐恵子さん(43)は「(日用品が)もし値上がりするなら(全体的に)給与も上がることを期待したいのですが…」と、もどかしそうに話す。(長野県、信濃毎日新聞社)
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