岡谷市内にある同市出身の童画家武井武雄(1894~1983年)の生家について、老朽化などを理由に取り壊す市の方針に反対し、保存を求める活動が熱を帯びている。江戸期に武家屋敷だった旧家で「文化財的価値は高い」とする有志が「武井武雄をあいする会」を設立。12日には安曇野ちひろ美術館(北安曇郡松川村)常任顧問の松本猛さんを招いた講演会を開き、保存の必要性を議論した。 講演で松本さんは、母親で絵本画家のいわさきちひろが幼少期に絵雑誌「コドモノクニ」を愛読し、武井の童画から影響を受けたことを紹介。生家について「武井というすごいアーティストを生んだ家で、歴史的にも価値あるものを無くしていいのかと感じる」と訴えた。 同市堀ノ内に残る生家は、江戸時代に中級武士だった武井家の屋敷。約1870平方メートルの敷地に木造2階建て延べ約190平方メートルの母屋と、長屋門がある。会によると、元禄11(1698)年の建築ともされる。市によると、2006年に死去した武井の長女には法定相続人がおらず、「特別縁故者」の男性らから08年、寄贈を受けた。 市は生家について、過去に火災に遭ったことや、大幅な増改築がなされており、「歴史的価値は低い」と説明。寄贈元の男性から取り壊すよう要望を受けたことを理由に、当初から解体する方針を示していた。 跡地には、隣接する西堀保育園の新園舎を建設する方針。市は昨年、母屋の隣にあった木造の土蔵を解体した。地元区も母屋の取り壊しを容認し、今年1月には保育園の早期整備を市に要望した。 こうした動きに対し、危機感を募らせた市内外の有志が今年3月、生家の価値を考えるシンポジウムを開催。5月には「あいする会」の発足会を開いた。会には茅野市出身の建築家・建築史家藤森照信さんや、古民家再生に取り組む建築家降幡広信さん(安曇野市)らも参加。シンポでは「江戸中期の民家は貴重」(降幡さん)などと訴えた。 会によると現在、会員は諏訪地方などの100人余に拡大。会長の作庭家小口基実さん(65)=岡谷市=は「武井の生家を次代に伝えるのが市の役割」と強調し、保育園の図書館として活用するなどの案を示す。一方の市は「生家は取り壊し、跡地を何らかの形で武井の顕彰につなげる方向は変わっていない」(ブランド推進室)との姿勢だ。 2014年は武井の生誕120年に当たり、市は3月以降、全国で武井作品の巡回展を企画するなど、武井の魅力発信に力を入れる方針。そんな中で生家の取り壊し問題が注目を浴びる状況に、「タイミングが良くない」(市議)との声も出ている。(長野県、信濃毎日新聞社)
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