松本市内田の牛伏寺で21日までに、奈良時代に書き写されたとみられる法華経の一部を切り取った「断簡」が見つかった。調査した静岡大教育学部(静岡市)の山内常正講師(日本書道史)によると、筆跡は五島美術館(東京)にある重要文化財「法華経巻第五(藤南家経)」とほぼ同じ。重文は、奈良時代に勢力を誇った藤原南家の写経所で書き写されたと推定されている。同美術館の名児耶(なごや)明学芸部長は、断簡について「数少ない奈良時代のお経の可能性が高く、史料として興味深い」と話している。 藤原南家によるとみられる写経が確認されたのは3例目(1件は戦災で焼失)。牛伏寺の寺誌を編さんした刊行会が21日、寺誌の完成発表会で公表した。 断簡は牛伏寺の宝蔵で見つかり、縦約25センチ、横約13センチ。掛け軸に仕立てられていた。計8巻の法華経のうち、第2巻の一部に当たる計110文字が7行にわたって書き写されている。同寺には、1813(文化10)年に住職の憲如(けんにょ)が京都でこの掛け軸を入手したとの記録があるという。 刊行会などの依頼を受けた山内さんらは、筆跡鑑定で五島美術館の重文と「ほぼ間違いなく同じ筆跡」と判断。紙質や書体の分析も踏まえ、重文と同時代に書き写されたと推定した。山内さんは寺誌で「牛伏寺の宝であり、国の貴重な文化財であり、後世に継承すべき名品」と評価している。 牛伏寺はこの日、鎌倉時代に作られたとみられる「銅板線刻(どうばんせんこく)十一面観音御正体(みしょうたい)」や、中国で宋の時代に版木で印刷された大般若経の教典など4点も披露した。十一面観音御正体は銅製の円板で、主に神社に掲げた「懸仏(かけぼとけ)」とみられている。 寺誌はこうした成果を歴史編と自然編の全2巻、916ページにまとめた。2巻セットで2万6250円。問い合わせは牛伏寺(電話0263・58・3178)へ。(長野県、信濃毎日新聞社)
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