県内の商業地などでドライクリーニングを手掛ける店や工場で、国が求める安全対策があまり進んでいないことが10日、県への取材で分かった。引火性の石油系溶剤を使う場合、建築基準法上は工業系の用途地域以外では操業できない。安全基準を満たせば操業を続けられるが、数百万円もの投資が必要で二の足を踏む業者が少なくないのが実情だ。行政側が違反を放置してきた面もあり、業界側は柔軟な対応を求めている。 石油系溶剤は適切に管理しないと火災につながる恐れがあるため、建築基準法上、同溶剤を使うドライクリーニング工場などは住宅・商業系地域で操業できない。しかし、2010年の国土交通省の調査で、全国のドライクリーニング工場など28821カ所のうち14479カ所、県内484カ所のうち140カ所が、同法違反と分かった。 その際、同省は衣類から発生した静電気と溶剤の引火事故を防ぐため、作業場に一定のスペースを確保する―といった安全基準を示し、これに沿えば県や市の判断で操業を続けられるとの方針を示した。 だが、国と県によると、ことし5月末時点で基準を満たして操業を認められたのは全国9カ所、県内は飯田下伊那地方と佐久地方の各1カ所にとどまっていた。非石油系溶剤への切り替え、移転、廃業などで対応したところもあるとみられるが、違反状態のまま操業しているところが少なくないとされる。 北信地方の商業地で、数十年営業しているというクリーニング店もその一つ。経営者の男性は「ずっと前からやってきて問題ないと思っていた。降って湧いたような話だ」と不満そうだ。基準に合うような設備の改善が必要と考えてはいるが、必要なコストはまだはじいていない。「今のところ役所もそれほど厳しくない。寝た子を起こさないで…」と本音を漏らした。 違反状態となったのは、古くから営業し、途中でドライクリーニング設備を導入した店が多いとみられる。建物の新築、改築時に建築確認をする県や市の担当部署は途中で導入したケースを把握せず、クリーニング業を管轄する保健所は、建築基準法に適合しているかどうか確認しないため、放置されてきたらしい。 それだけに、県建築指導課は「費用が掛かる対策を無理強いするのは難しい。『行政にも責任があったのではないか』とおしかりを受けることもある」。県クリーニング生活衛生同業組合(事務局・長野市)の加藤文人理事長(64)は「違法状態の解消は当然だが、無理な対応は経営への打撃が大きい。行政は柔軟に対応してほしい」と求めている。(長野県、信濃毎日新聞社)
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