奈良市の薬師寺は、東塔(国宝)の解体修理工事で見つかった長野県内の小中高校名が刻まれた瓦について、「東塔―60年前の思い出の瓦展」と題して境内で一部の公開を始めた。4~5月は県内を含む全国から奈良、京都方面を修学旅行で訪れる中高生も多く、時期を合わせた。5日も県出身者ら多くの人が見学していた。 内部にひびが入っている可能性などから再利用されないと決まった瓦の中から、奈良県文化財保存修理事務所の許可を得て48枚を大講堂内に並べた。「軽井沢東小」「杭瀬下中」「飯田風越高」といった校名が読み取れる。1950(昭和25)~52年の修繕工事の際、奈良県側の依頼で信濃教育会が長野県内各校に寄付を呼び掛けた経緯を記した瓦もある。展示は3月25日から始まった。 「松本蟻ケ崎高」の瓦もあり、同高校卒業生の小林陽子さん(75)=大阪府豊中市=は5日、知人と見学に訪れた。3月下旬にあった法要に参加した際、瓦に気付いたという。薬師寺には夫の喜芳さん(故人)とよく写経に訪れたといい、「不思議な縁を感じます」。子ども連れの旅行で訪れた会社員長谷川潔さん(45)=東京都目黒区=は母ミヨエさん(76)=同=が飯山市富倉出身。「富倉中」の瓦を見つけ、その場でミヨエさんに電話した。「帰ったらしっかりと伝えたい」と笑顔だった。 薬師寺には7日以降、県内からの修学旅行生が多く訪れる予定で、松久保伽秀(かしゅう)執事は「人々の温かな思いを伝え、つないできた瓦を多くの人に見てほしい」。文化庁は、再利用しない瓦は原則として廃棄処分を求めている。保存の可能性を模索している信濃教育会は「展示で実物を見て、瓦への関心が高まっていくといい」としている。 展示は12月末まで。拝観料は時期で異なり、大人500円か800円。問い合わせは薬師寺(電話0742・33・6001)へ。(長野県、信濃毎日新聞社)
↧