AIJ投資顧問(東京)による年金資産消失事件で、同社が長野県内に事務所を置く厚生年金基金(厚年基金)にも、投資信託などのファンドを実態価格の最大110倍余りに水増しした価格で販売していたことが22日、分かった。詐欺罪などで起訴され、公判中の同社社長浅川和彦被告(60)=保釈中=が信濃毎日新聞の取材に答え、「運用損失を取り戻すことしか考えていなかった」などと、現実と懸け離れた価格で販売していたことを明らかにした。 県内で同事件の被害を受けたのは、長野市の長野山梨石油、北信越管工事業、県建設業、甲信越印刷工業、県卸商業団地と、松本市の県病院、県機械工業、県食品の8厚年基金で、2004年8月~11年12月に同社と取引をした。浅川被告によると、最初の取引相手は長野山梨石油で、04年8月に約5億円のファンドを販売。その後、傘下の証券会社を通じて県内で営業活動を活発化し、08年には6基金に計約60億円を販売するまでに拡大した。 当初は実態価格で販売したが、06年9月に水増し価格で販売し始め、県建設業に複数のファンド計6億2千万円を、1・56倍の9億7千万円で販売。その後、取引が少なかった07年を除いて毎年水増し価格での販売を行い、10、11年に販売したファンドは全て水増し価格だったという。 AIJは解約されたファンドを別の基金に販売する「相対売買」を繰り返しており、浅川被告は水増し率について、好調を装った運用成績の推移を基に「流れで決めていた」と説明。県内の厚年基金へは数倍から40倍台で販売した他、11年12月には840万円余りのファンドを県病院に115・9倍の9億7400万円余りで販売したという。100倍を超えたのはこの1件だけだが、県内8厚年基金への水増し分を含む販売総額は約272億7千万円に上った。 一方、県建設業と長野山梨石油の2基金はこの間に計約86億6千万円分のファンドを解約。浅川被告側はこの解約額は実態より高く、2基金は実態に基づかない利益を得たと主張。こうした「利得基金」に利得分の返還を要求し、他基金の被害回復を図る考えを示している。 これに対し、県建設業の中川信幸理事長は「委託した年金資産が消失した現実を考えると、論外だ」と批判。「利得基金」ではない県内のある被害基金も「水増しされていることを知らなかった基金に非はない。返還を求めることはできない」と指摘している。 浅川被告ら3人は、09年2月からことし1月にかけ、県建設業など県内3基金を含む17の年金基金に虚偽の運用実績を示し、傘下の証券会社を通じて投資信託などのファンドを水増し価格で販売、計約248億円をだまし取ったとして、詐欺と金融商品取引法違反(契約の偽計)の罪に問われている。(長野県、信濃毎日新聞社)
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