県内の千曲川や天竜川にも生息するカゲロウの一種「オオシロカゲロウ」は、対馬海峡ができたり、日本列島内で山岳が隆起したりしたのをきっかけに遺伝的に分化したことを、信大理学部(松本市)の東城幸治准教授(生物系統進化学)が遺伝子解析で突き止めた。地理的に分断されると、生物が遺伝的に分化することは知られているが、遺伝子解析と地史(地質学的な変遷の歴史)を組み合わせて裏付けることに成功した。 関根一希(かずき)・日本学術振興会特別研究員、林文男・首都大東京准教授との共同研究。研究成果は英リンネ学会の専門誌「バイオロジカル・ジャーナル」に発表した。 細胞内の小器官ミトコンドリアの遺伝子には、一定の時間間隔で突然変異が起きることが分かっており、遺伝子の塩基配列を比べれば遺伝的に分化した年代を推定できる。 東城准教授らはオオシロカゲロウを国内で83個体、韓国で53個体採取し、遺伝子を解析。比較した結果、日本と韓国の個体は約187万年前に遺伝的に分化したことが判明した。地質学の研究によると、長崎県沖の対馬海峡は約170万~180万年前に海水面の上昇などでできたと考えられており、年代が一致した。 オオシロカゲロウは淡水に生息する上、羽化後の寿命が短く、移動、分散する能力も低いため、東城准教授は「海峡ができて行き来がなくなり、遺伝的分化が進んだのではないか」とみている。 また、中部山岳を境とする東日本と西日本で遺伝子を比べたところ、約109万年前に分化したとの結果が判明。中部山岳が約100万年前に3千メートル級に隆起したとされる年代とも一致し、山岳の隆起で遺伝的に分化した可能性が高いことも見えてきた。 東城准教授は「生き物の形だけを見ても経てきた歴史は分からない。遺伝子解析データと地史を組み合わせることで、進化の歴史が手に取るように分かる」と話し、今後は行動や形態も調べて総合的に進化の歴史を明らかにするとしている。また、北米や東南アジアの個体、他の水生生物の遺伝子解析にも取り組む計画だ。(長野県、信濃毎日新聞社)
↧