伊那市西箕輪の農道で2010年9月、電柱に衝突した軽乗用車内で市内の会社員佐野利光さん=当時(42)=の刺殺体が見つかった事件の裁判員裁判で、長野地裁(高木順子裁判長)は14日、強盗殺人罪に問われた上伊那郡南箕輪村田畑、無職藤井時雄被告(69)が佐野さんを殺害したと認定し、求刑通り無期懲役の判決を言い渡した。県内の裁判員裁判で無期懲役判決は3件目。犯人ではないとして、無罪を主張してきた弁護側は判決を不服とし、即日控訴した。 自白や目撃証言など、犯行を裏付ける直接証拠がない県内初の裁判員裁判。同地裁は検察側が積み上げた間接証拠の多くを採用し、「(これらに対し)被告は合理的な説明ができず、犯人性の推認を打ち破ることはできない」と結論付けた。 判決理由で高木裁判長は、佐野さんの携帯電話のメモ機能に残された記録などから、被告は佐野さんに30万円の借金があったと認定。メモ機能の記録や、現場近くで見つかった「一万円札大の紙片」から被告の指紋が検出されたことに、被告から合理的な説明はないと指摘し、借金はなく、犯行現場にも行っていないとの被告の供述は信用できないと退けた。 その上で、被告は借金返済を免れるため、紙片を茶封筒に入れて佐野さんに渡したが見破られ、殺害したとした。 被告の車や自宅に血痕の反応がなく、返り血を浴びた衣服も発見されていない、との弁護側主張については「事件発生後3週間以上たってから逮捕、検証しており、その間に証拠物が消失、隠蔽(いんぺい)された可能性が十分に考えられる」とした。 被告が一貫して犯行を否認したことについては「自己保身にきゅうきゅうとしている姿は醜悪で反省の態度が見られない」と批判し、求刑通りの判決を言い渡した。 判決後、長野地検の小池充夫次席検事は「裁判員にとって判断が難しかったと思うが、おおむね適正に認定していただいた」とし、被告の主任弁護人の米山秀之弁護士(長野市)は「被告人に不利な方に推認を重ね、重大な事実誤認がある」と批判した。 判決によると、藤井被告は10年9月9日午後9時40分すぎから同10時半の間、勤務先の同僚だった佐野さんから借りた30万円の返済を免れるため、車内にいた佐野さんの首や胸を柳刃包丁(刃渡り約20・5センチ)で複数回突き刺し、失血死させた。 この日は男性4人、女性2人の裁判員のうち女性1人が欠席した。補充裁判員は男性3人。(長野県、信濃毎日新聞社)
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