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伝統技法で描く高遠の自然 伊那の染色家、創作に励む

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 染料を調合したのりを筒に入れて描く「筒描き」と「写し友禅」の伝統的な技法を組み合わせ、伊那市高遠町の染色家藤沢まゆ(本名・麻侑)さん(26)が独自の作品を生み出している。東京でこの技法と出合い、思うままに描き始めたのは、生まれ育った高遠で目にしていた植物や虫たち。「一度離れたことで、身の回りの自然が全く違って見えた」。創作の場とする故郷を見つめ直し、自然とのつながりを表現している。  作業部屋は自宅の一室。縦約1・5メートル、横約0・5メートルの綿布に、筒に入れた顔料で絵柄の主線を入れていく。これが「筒描き」だ。新作「キリンの木」は、キリンの頭上に雲が湧き、山の頂がのぞく。「形は全く違うけれど、雲で隠れる仙丈ケ岳をイメージした」。キリンの頭から芽吹く木々に咲く花は、幼少時に祖母の家で見たフジだ。  作品は、もち米の粉とぬかでできたのりに調合した染料で色付け。専用の蒸し器で熱を加え、色を定着させる「写し友禅」の技法を使う。調合の量や蒸し方などで、色合いは大きく変わる。「重ねた色がどのように出てくるのか分からない。その醍醐味(だいごみ)があるから描き続けられる」  信州高遠美術館に勤めていた母の影響もあり、小学生のころから美術作品に親しんだ。赤穂高校(駒ケ根市)では美術部に入部。ただ、「絵を習ったり、描いたりすることが好きになれなかった」という。進路に悩み、目にしたのが染色工程の写真。布を水で洗い上げる時の美しさに「一目ぼれ」し、染めや織りを学べる女子美術大短期大学部(東京)に進んだ。  自分の表現を模索する中、教員から筒描きと写し友禅を教わった。創作に取り掛かると、「小学生のころに山で遊んだ記憶が浮かび、無意識に作品に表れてきた」。東京になじめない自分に気付き、2010年に帰郷した。  一つ一つの作品に物語を考える。例えば、アジサイとクジラを描いた作品では「空を泳ぐクジラが噴いた潮が地上に落ち、海も人間の体内の水もしょっぱくなる。雨に混じった塩分でアジサイは染まる」と思い描く。「一続きの物語を考えてみることで、どんなつながりを表現したいのか見えてくる」という。  新作は、上伊那郡中川村で作家らが工房を公開する5月の「アトリエ開放展」と、伊那市新山で開く個展に出品する。開放展に参加する知人の作家から、木製の戸を再利用した額縁を紹介され、制作を始めた。「親しい人、共感できる人とのつながりがある場所が自分の古里になっていく」と考えている。(長野県、信濃毎日新聞社)


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