昨年5月まで半年間にわたり、証券会社社員を名乗る男らから何度も自宅に電話があり、最後は現金300万円を要求された長野市の女性(91)が13日、信濃毎日新聞の取材に応じて男たちとのやりとりを証言した。長い時間をかけて何度も電話してくる男ら。「暇に任せて相手をしてしまった」と話す女性。被害はなかったが、証言からは一人暮らしの女性の心理に付け込む特殊詐欺の巧妙な話術が浮かび上がった。 最初に電話があったのは2011年の終わりごろ。「南米の金山の採掘権購入案内パンフレットが届いていないか」。そんな内容だった。数日後、金山の地図とパンフレットが郵送されてきた。指定された証券会社に電話すると、「多くの人が権利を買いあさっている中であなただったら大丈夫だと思った。購入しませんか」。男はそう持ち掛けたという。 その時、女性は「そんなにお金は欲しくない」と断った。だが、その後も月1回の頻度で電話がかかってきた。電話の主は課長を名乗る年配の男、若い男など4人だった。「無料で20万円分の権利を差し上げる」とも誘われた。 女性は約20年前に夫を亡くし、一人暮らし。日中は話す人も少なかった。ほぼ定期的にかかってくる電話もなかった。「たくさん社員がいる会社でしっかりしていそうだし、対応も丁寧だった。だんだん電話を切るのが悪いと思ってきた」と振り返る。 昨年5月、男たちは「どうしても採掘権を欲しいという人がいる。迷惑は掛けないから立て替えてもらえないか」と迫り、現金300万円を要求。無料で権利の一部を女性に譲るので証書を送ると話した。「何度も電話をくれたし、300万円なら何とかなる」。女性は心が揺れた。 だが、女性は証書が送られたら買わなくてはならないとも考え、「警察に相談する」と電話で漏らした。その瞬間、電話は切られ、それ以降かかってくることはなかった。長野中央署に相談すると、特殊詐欺の手口と説明され、ようやく事態を理解した女性。「話は本当にうまかった。もし少しでももうけたいと思っていたらだまされたかもしれない」と話している。(長野県、信濃毎日新聞社)
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