政府は5日の産業競争力会議に示した成長戦略素案で、従業員の雇用を維持した企業への助成金を縮小し、転職を支援した企業への助成金に振り向けることを盛った。人手不足が見込まれる「成長産業」への転職を後押しする目的。ただ、県内の労働者にも「解雇しやすくなるだけではないか」との懸念があり、成長産業と見込まれる企業も「雇用を増やすのは簡単ではない」。政府が掲げる「失業なき労働移動」はイメージしにくいようだ。 連合長野の根橋美津人事務局長は、素案について「人の移動がたやすくなること自体に問題はない」とする。だが、今は従業員の再就職決定後に助成している「労働移動支援助成金」を、企業が再就職支援会社に従業員の支援を委託した段階で受け取れるようにする点も踏まえ、「会社が働く者を解雇しやすくなる」と指摘。大企業が助成対象になることも問題だとした。 建築資材会社に先月まで勤め、現在求職中の長野市の男性(36)は公共職業安定所で職業訓練を受けている。だが、職安での訓練は「業種の幅が限られる」とし、「(成長戦略の)アイデアは分かるが、異業種に就くのは簡単ではない」と話した。 素案では、健康、エネルギー、次世代インフラ、地域資源の4分野で新たな市場をつくり出すことが明記され、これらが再就職先の候補になる可能性がある。 県内でスポーツクラブなどを展開するアイスク(飯田市)の柄沢秀樹専務(54)は、健康増進や病気予防のためにスポーツクラブに通う人口を増やす政策がなければ、雇用増加は難しいと言う。運動指導には専門知識が必要で、「未経験者の研修までは企業が経費を掛けられない」と課題を挙げた。 走行時に水しか排出しない燃料電池車用の水素ステーションの圧力計や圧力センサーを製造する長野計器(上田市)も、「燃料電池車を政府がどの程度増やそうとしているかにもよるが、社内で部門間の異動はあっても新規雇用まではいかないと思う」。他業種からの転職者が即戦力になるのか、との疑問もあるとしている。 太陽光発電設備施工などの太陽電気工事(長野市)の佐藤僚太郎・代表取締役(40)は「成長産業にただ人を移動させるというのは安直な印象がある」とした上で、「太陽光発電が今後伸びるだろうという感覚はある。むやみに雇用はできないが、違った業界から人を迎え入れることは大歓迎」と話していた。(長野県、信濃毎日新聞社)
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