宇宙空間から地球に飛来する「宇宙線(放射線)」を独自の手法で観測することで、太陽の磁場の広がりや変化を捉えることに、信州大理学部(松本市)の宗像一起(むなかたかずおき)教授(60)=宇宙線物理学=らの日中共同研究チームが世界で初めて成功した。太陽の磁場は地球にも影響を与え、通信電波を乱したり送電線の変圧器を壊したりする「地磁気嵐」などを引き起こす。今後、観測精度を上げれば、地磁気嵐を予測する「宇宙天気予報」の実現などにつながる、と期待している。 日本と中国の25機関約80人による共同研究で、信大からは理学部の加藤千尋准教授と全学教育機構の安江新一特任教授も参加。成果は近く、米物理学誌「フィジカル・レビュー・レターズ」に発表する。同誌に受理されたことは世界初の証明となる。 強い磁場を持つ太陽は、磁力線を宇宙空間に噴き出し、地球など周りの天体に影響を与えている。太陽の活動が活発な時期は磁場が複雑な形になり、静かな時期は磁場が整った形になると考えられているが、磁場は目に見えないだけに、その広がりや変化を観測することは困難だった。 研究チームは、太陽の方角から飛来する宇宙線は、太陽の磁場などに遮られ、数が少なくなって地球へ届くことに着目。1990年に中国チベット自治区の羊八井(ヤンパーチン)の高原に建設した宇宙線観測施設「チベット空気シャワーアレイ」で、太陽方向から来た宇宙線の量を観測し、変化を見た。 1996~2009年の量について、一目で分かるよう宇宙線を遮る度合いを色で示す分布図を作ったところ、太陽の活動が活発だった00年は薄く、活動が静かだった96年と09年は濃かった。活発な時の磁場は複雑な形のため宇宙線を十分に遮れず、逆に、活動が静かな時は整った形をした磁場に多くの宇宙線が遮られた―とみている。 宗像教授は「宇宙線を観測することで、太陽の磁場の構造を知る手掛かりが得られる」と説明する。太陽と地球の間にある磁場の構造が分かれば、地磁気嵐を早い段階で予測する宇宙天気予報の実現や、ロケットで人類が宇宙へ出るなど宇宙を利用していく際に基礎的な情報が得られるという。今後、さらに観測の精度を上げていく計画だ。(長野県、信濃毎日新聞社)
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