大町高校(大町市)OBで安曇野市三郷温出身の映画プロデューサー、吉丸昌昭さん(73)=東京都調布市=が戦争を題材にしたドキュメンタリー映画の制作を県内外で進めている。「はじめ嬉(うれ)しく、あと悲し~十代の少年兵たち、青春の軌跡」(仮題)で、元少年兵4人を中心に描く作品。「戦争に翻弄(ほんろう)されながらも力強く生きた少年兵の生き方は、現代の青少年に訴えるものがある」としている。 4人のうち、県内関係者は、満蒙(まんもう)開拓青少年義勇軍隊員だった内田辰男さん(84)=安曇野市=と、ともに旧海軍飛行予科練習生(予科練)に志願した宮田正士(まさと)さん(84)=木曽郡木曽町=と故・細川晴男さん=同町、今年4月に死去=の3人。宮田さんは特攻が役割の特殊潜航艇「海龍」の搭乗員、細川さんは人間機雷「伏龍」の隊員だった。 吉丸さんは23日、監督の長尾栄治さん(46)らと安曇野市で内田さんを取材。14歳で義勇軍に志願した内田さんは、満州(現中国東北部)に渡ったことを「当時の(日本の)農村は困窮し、親に負担を掛けないよう自分で生きていくと考えた」と振り返った。戦後はシベリアに向かう貨物列車に乗せられたが、その後帰され、抑留を逃れたエピソードも話した。 内田さんは中国のハルビンで、日本人の子どもや女性らの遺体を集め、掘った穴に運ぶ様子を目の当たりにしたといい、「何とも言えない。こういうのは伝えておきたい」と切なそうに語った。 この日、吉丸さんらは、4人の元少年兵とは別に旧南満州鉄道(満鉄)機関士だった伊藤美嗣(みつぐ)さん(96)も大町市の自宅で取材。伊藤さんは、満州へ行ったことに「悔しく情けないこともあったが後悔はない。よく死ななかった」と振り返った。 吉丸さんは、戦争を次世代に伝えるための映像作品制作を続けてきた。大町市で見つかった兵事書類を題材にしたドキュメンタリー映画「大本営最後の指令」(2011年)は、「映文連アワード2012」審査員特別賞を受賞。5作目となる今回の作品は12月初旬に完成予定で、来年1月に安曇野市穂高交流学習センターみらいや、下伊那郡阿智村の満蒙開拓平和記念館で上映する。 戦時中を知る人の高齢化が進む中、多くの証言を集めている吉丸さんは「自分たちの手で国を守らなければならなかった元少年兵の方々も80代半ばになる。戦争体験者の声に耳を傾け、あらゆる世代に戦争の時代を考えてもらいたい」と話し、過酷な時代を生き延びた経験が生き方に与えた影響を解き明かしたい―としている。(長野県、信濃毎日新聞社)
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