安倍首相が来年4月の消費税率引き上げ方針を固め、景気への影響を軽減するための経済対策が5兆円規模になる見通しが12日、明らかになった。首相は物価や雇用などの指標が改善し、税率引き上げの条件だった「経済状況の好転」がほぼ確認されたと判断したとみられるが、県内では依然として全国の水準を下回る指標もある。県内の消費者や事業主からは引き上げを容認する意見の一方、経済対策に注目したいとの声が聞かれた。 12日、松本市の住宅展示場。見学に来ていた市内の会社員男性(34)は「家を買うのはよそうかな」とつぶやいた。妻、長男と3人でアパートに暮らす。9月末までに住宅建築の契約を結べば、来年4月以降の引き渡しでも今の消費税率が適用されるが、土地も未定で「間に合いそうにない」。経済対策では、ローンでの住宅購入者に最大30万円の給付が検討されているが、「消費税が上がれば生活費全般の支出が増え、苦しくなる」と話した。 長野労働局によると、2012年11月の「有効求人倍率」は全国、県内とも0・82。ともにその後改善しつつあるが、県内のペースは全国より緩やか=グラフ。同局職業安定課は、「県内に多い製造業には、原材料費の高騰などで新規採用に踏み切れない事業者が少なくない」とみる。 月々の鉱工業の生産量、在庫量などを指数化し、景気動向を把握する代表的な指標「鉱工業指数」の生産指数は県内でも上昇しており、6月は関東経済産業局管内9都県の平均にほぼ並んだ。だが、05年の数値を100とするとまだ81・8にとどまり、景気はまだ回復途上といえる。 与党内では、設備投資を進めたり、賃上げしたりした企業に対する減税などの支援策拡充も検討されている。長野市の運送会社代表取締役専務、宮崎秀夫さん(44)は支援策の検討を評価しつつ、「減税され、業績が上がっても、給料に反映できるようになるまでは数年かかる」。 運送業界では燃料費上昇分を運送費に上乗せするのは難しく、消費税率が上がると荷主から運送費の値下げを求められる可能性もある、と宮崎さん。「長期的な対策が必要ではないか」と訴えた。 総務省によると、長野市の7月の消費者物価指数(10年を100とした場合。生鮮食品を除く)は100・0で、2カ月連続のプラス。物価上昇は徐々に家計を圧迫するとみられている。 3歳の長女を育てる長野市の主婦市川渚さん(36)は「景気の良さを感じているのはお金持ちや大企業ばかりではないか」と指摘する。会社員の夫の給料は以前と変わらない。消費税率引き上げは「子どもたちに(国の)借金を残すよりはいい」と思うが、「福祉などにしっかり使って、国民に効果が分かるようにしてほしい」と求めていた。(長野県、信濃毎日新聞社)
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