日本赤十字社(東京)の保健医療チームの一員として、台風30号で甚大な被害を受けたフィリピンに派遣された諏訪赤十字病院(諏訪市)の臨床心理士森光玲雄(れお)さん(34)が29日までに、セブ島北部で支援活動に入った。被災から3週間たっても復旧が進まない中、「心のケア」が必要な子どもたちが多いのが実情。森光さんは東日本大震災の被災地に派遣された経験も生かし、仮設診療所の隣に遊び場を設けて自由に訪れることができるようにしたところ、ようやく子どもたちが笑顔を見せるようになった。森光さんは「復興への希望」も感じ取っている。 森光さんや医師、看護師ら計13人でつくる同チームは22日、セブ島最北部のダンバンタヤン郡マヤ村に仮設診療所を開設。同郡は人口8万6千人、世帯数1万9千で、暴風雨や高潮で住居の9割以上が全半壊した。森光さんによると、マヤ村では現在も至る所にがれきが散乱し、電気も復旧していない。被災者たちは親類や友人同士で身を寄せ合い、全壊を免れた屋根のない家に暮らしている。 被災者の中にはストレス性とみられる反応を示す例も出ている。ある母親は5歳くらいの娘を連れ、「おとなしかった娘が人が変わったように怒りっぽくなった」と相談に訪れた。現地ではストレスや精神的なケアに対する知識が十分でなく、母親自身も不安を抱えていた。 森光さんは東日本大震災後、福島県相馬市などで子どもの心のケアに取り組んだ。その際の経験も生かし、仮設診療所の横にテントの「遊び場」を設置。子どもたちと、折り紙や日本から持ち込んだ竹とんぼで遊んだり、サッカーで体を動かしたりしている。遊びを通じて子どもたちに「自己コントロール感」や達成感を与えることで、災害後の無力感を癒やす効果が期待できるという。 多い日には、1日100人もの子どもたちがテントにやって来る日も。一人一人に細やかなケアをするのは難しいが、森光さんは「子どもたちが自然と集団を作り、楽しそうに遊び出す姿を見ると希望を感じる」と話す。 森光さんは日赤が海外に送り出す初めての臨床心理士で、派遣期間は12月末までの予定。災害復旧が長期にわたることもにらみ、ストレスを抱えた人がどんな反応を示すか、そうした人にどう対応すべきか―といった知識や技術を、現地のスタッフに積極的に伝えていくつもりだ。 森光さんは「災害が頻発する地域なので、今後も被災者への心のケアは必要。自分の活動が少しでも役立ってほしい」と話している。(長野県、信濃毎日新聞社)
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