自伝的な小説「放浪記」で知られる作家、林芙美子(1903~51年)の疎開先、下高井郡山ノ内町角間温泉にある林芙美子文学館が15日で閉館することになった。1999年の開館以来、館長を務める地元の元高校教諭、黒鳥正人さん(89)が高齢で、体調面から今後の管理、運営が難しくなったため。初版本や原稿など約500点の資料の多くを所有する町は今後、町立志賀高原ロマン美術館での所蔵、展示を検討している。 同文学館などによると、芙美子は1944(昭和19)年8月から約1年間、角間温泉に滞在。地元の旅館組合などでつくる「林芙美子の文学を愛する会」と町が、芙美子が暮らした木造2階建ての民家を改築し、文学館にした。 1階に「放浪記」の初版本、直筆の原稿、書簡など、2階に、疎開時に使った机やたんす、着物などを展示。多くは、この民家が妻の実家だった西沢良治さん(87)=平穏=が町に寄付し、町が旅館組合に貸し出した。 黒鳥さん自身も芙美子と面識があり、思い出とともに来館者に展示資料を解説してきた。通年で開館し、多い年には約1800人が訪れたという。黒鳥さんは「角間温泉に名を残した林さんに恩返しをしたいと続けてきたが、みんなと相談して閉館することになった」と話す。 町では11月、俳人小林一茶(1763~1827年)らの遺墨を展示していた湯田中の俳句資料館「湯薫(とうくん)亭」も管理、運営者の高齢化で閉館。竹節義孝町長は民間施設の相次ぐ閉鎖に「それぞれ事情がありやむを得ないが、残念」と話した。芙美子の資料は「町の活性化のために生かしていきたい」としている。(長野県、信濃毎日新聞社)
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