国名勝の「姨捨(おばすて)の棚田」を世界農業遺産に―。「田毎(たごと)の月」で知られる千曲市八幡の姨捨の棚田をめぐり、世界農業遺産認定に向けた調査が来年度始まる。同遺産は、国連食糧農業機関(FAO)が世界の農業文化的遺産を保全、活用しようと2002年に創設した。国内では、新潟県佐渡地域など5カ所が認定されている。調査に入る千曲市の関係者は「魅力を世界に発信し、多くの人に訪れてほしい」と話している。 FAO日本事務所(横浜市)によると、現在、日本を含む世界11カ国の25の地域が世界農業遺産に認定されている。国内は「トキと共生する佐渡の里山」(新潟県)、「能登の里山里海」(石川県)、「静岡の茶草場農法」(静岡県)、「阿蘇の草原の維持と持続的農業」(熊本県)、「クヌギ林とため池がつなぐ国東半島宇佐の農林水産循環」(大分県)の5地域。いずれも伝統農法や景観、生物多様性などを大事にしている地域だ。県農業政策課によると、県内で申請の動きは千曲市以外にはないという。 農林水産省によると、認定に伴う国やFAOの資金的な援助はないが、地域のブランド化や観光集客が期待できるという。既に認定された地域では、住民たちが自分たちの農業や活動に誇りを持つようになっている。 千曲市の推計で、姨捨の棚田周辺には年間4万1400人(12年)が訪れる。市は来年度、認定基準を満たすか調査するほか、既に認定された地域の自治体から助言を得る考え。早ければ15年度内の認定を目指す。姨捨の棚田を管理する住民グループ「名月会」の森正文会長(72)=千曲市羽尾=は「申請に向けてできることは協力したい。棚田を守るために苦労している人の意見もぜひ聞いてほしい」と話している。 農水省によると、地域住民らによる協議会や自治体などの申請を受けてFAOが現地調査や審査を行い、2年に1度開かれる国際運営委員会で決定する。次回の委員会は15年に開かれる予定だ。(長野県、信濃毎日新聞社)
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