マンション建設大手の長谷工コーポレーション(東京)が、茅野市郊外の奥蓼科で計画したリゾート開発を断念したことが14日、分かった。近くに建設予定だった県営蓼科ダム計画が中止されて開発規模の縮小を迫られた上、日本画家東山魁夷さんの作品で知られる「御射鹿(みしゃか)池」に近く、景観保全の観点で反対する住民もいた。同社は取材に対し、「昨今の社会情勢の中で、収益性などの面からリゾート開発が難しくなった」としている。 同社によると、1997年時点の当初計画は、255・4ヘクタールの用地に別荘419区画、リゾートマンション394戸、温泉施設、ホテルなどを建設する内容だった。蓼科ダムはリゾート開発に伴う流出水対策の機能も担うことになっていたが、2003年に田中康夫知事(当時)がダム計画の中止を表明。これを受け、同社は開発面積を26・8ヘクタールに縮小、内容も温泉施設と別荘96区画などに見直した。 茅野市が08年7月に開発を許可し、同12月には県も開発申請を認めたが、同年秋のリーマン・ショックなどで景気が悪化し、着工に至っていなかった。同社は昨年12月、市に開発計画の廃止届を提出。同社広報IR部は「(奥蓼科での)今後の開発計画は今のところない」としている。 計画をめぐっては、地元住民らの「御射鹿池の景観を守る連絡会」が、09年に一帯の景観保全を求める約1万人分の署名を市や県に提出。代表の清水馨さん(71)=茅野市湖東=は、「一帯では複数の企業が開発を検討しては撤退していった歴史がある。今回も撤退が決まり、ほっとした」と話している。 一方、開発予定地の大部分を所有する笹原財産区の堀内久昭議長(66)=同=は「同社が一帯の森林整備を担っていた面もあった。社会情勢の変化が理由とはいえ、残念だ」としている。 御射鹿池は1933(昭和8)年に地元住民が整備した農業用ため池。東山さんの作品「緑響く」(県信濃美術館・東山魁夷館所蔵)の舞台となった。(長野県、信濃毎日新聞社)
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