日本産科婦人科学会に、生殖補助医療の一つ「体外受精」の実施施設として登録している県内の10医療施設のうち、3施設では不妊治療患者の相談に乗るカウンセラーがいないことが26日、分かった。同学会は、義務ではないが、体外受精の実施施設にはカウンセラーを置くことが「望ましい」としている。信濃毎日新聞がまとめた不妊治療をめぐる県内アンケートでは、周囲の無理解や治療の先行きに不安を抱える患者が多く、専門家は相談体制の一層の充実を求めている。 カウンセラーがいない3施設のうち、中信地方の1施設では、5年ほど前までカウンセラーがいた。担当職員が退職し、以後不在のままという。院長は「不妊治療のカウンセリングには専門的な知識が必要で、適当な人材が確保できない」と説明。相談には看護師らが対応しているが「相談に診療報酬はなく、経営面でも厳しい」と指摘する。 残る2施設には、カウンセラーだけでなく相談窓口もない。そのうちの1施設の担当看護師は「場所、人が確保できない」、もう1施設では「取材には応じない」などとしている。 カウンセラーのいる7施設のうち、諏訪マタニティークリニック(諏訪郡下諏訪町)は相談窓口を常設。渡辺みはるカウンセラーは「夫や親など近しい関係であっても、心の内を打ち明けることをためらう患者も多い。患者が聞いてほしいと思った時に、いつでも対応できる体制が必須」と話す。 わかばレディス&マタニティクリニック(松本市)では、助産師2人がカウンセラーを務めるが、相談窓口は設けていない。中山邦章院長は「小規模施設のため、スタッフが日頃の診療時の会話などで相談を受けている」としている。 長野市民病院、県厚生連篠ノ井総合病院、吉沢産婦人科医院(以上長野市)、信州大病院(松本市)、椎名レディースクリニック(飯田市)の5施設は、予約制で相談を受けている。週3回、相談窓口を開設する長野市民病院は「スタッフの人数がぎりぎりで常設にはできない」。篠ノ井総合病院は週1回、予約制で受け付けている。担当の宮沢香代子助産師は「現状では院内の患者だけが対象だが、院外からの相談希望もあり、対応は検討課題になっている」という。 日本産科婦人科学会で、体外受精の実施施設を審査認定している斉藤英和医師(国立成育医療研究センター不妊診療科医長)は「患者の中には医師に相談しにくい人がおり、医師の側も限られた時間では対応しきれないことがある。患者がより良い治療を受けるためにも、相談体制の充実が望まれる」としている。(長野県、信濃毎日新聞社)
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