北アルプス白馬岳(2932メートル)の白馬大雪渓の上部で2009年5月に発生した山火事の後、燃えたハイマツの植生が5年近く経過しても回復していないことが27日、信州大山岳科学総合研究所(松本市)の追跡調査で分かった。高山帯に自生するハイマツが燃えた現場には他の高山植物が増え、土壌が緩んでいたことも確認した。 高山帯の火事は国内では珍しいため生態系の変化を調べる機会はまれで、同研究所は「日本の高山帯の生態系が極めて脆弱(ぜいじゃく)であることがあらためて示された」としている。 調査は09~13年度の5年間、中信森林管理署(松本市)が同研究所に委託して実施。火事現場の枯れたハイマツ林に1メートル四方(1平方メートル)のエリア3カ所を設定し、植生の変化を定点観測した。 その結果、ハイマツは周囲から新たな種子が供給されず、植生は回復しなかった。だが各エリア内に占めるその他の高山植物の面積割合を調べると、火事直後の09年夏は6~31%で、各エリアともその後の割合は上昇。13年夏には43~66%になった。 燃えなかった周囲のハイマツ林には、他の高山植物があまり侵入していなかったが、火事現場にはイワオウギやタカネコウボウなど多数の高山植物を確認。同研究所の佐々木明彦特別研究員は火事現場の植生について「今のところ、元通りにするのは望めない」とする。 一方、ハイマツが枯れて新たな落ち葉が供給されることがなくなり、11年夏に4センチほどあった火事現場のハイマツの落ち葉層は12年夏に約2センチ、13年夏に5ミリほどと次第に薄くなった。 これらは「断熱」の役割を果たしているが、落ち葉層がなくなり、一帯の地中温度も変化が激しくなった。地中1センチ部分では11年以降、一日の中で夜間に凍結し、日中に融解するサイクルが頻発。水分を含む土は凍結で膨張し、融解で収縮する。この繰り返しの結果、土壌が緩んだ。大きな石の移動はないが、12年夏には2センチほどの小石が3~4センチ動いていたことが確認された。凍結と融解の繰り返しや降雨の影響とみられる。 佐々木特別研究員は「凍結と融解が加速すると植物が定着しなくなる可能性もある」とし、生態系の変化をさらに継続して調べる方針だ。調査結果は29日、中部森林管理局(長野市)で開く森林技術に関する発表会で説明する。 山火事は標高約2600メートル前後の地点で発生。ハイマツや高山植物の草などを焼いた。焼失面積は発生当初は約4ヘクタールとされたが、現地の測量調査で約0・6ヘクタールだった。現場は中部山岳国立公園の特別保護地区内で、国が特別天然記念物「白馬連山高山植物帯」に指定している。(長野県、信濃毎日新聞社)
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