薬物で精神疾患を治療している患者が突然死するケースがあり、薬物と先天的な遺伝子変異が複合的に働いて致死性の不整脈が起きた可能性が高い―との研究成果を、信州大医学部(松本市)法医学講座の亀井佐矢子研究員(28)、浅村英樹教授(43)らがまとめた。過去10年間に県内で突然死し、解剖でも死因が分からなかったケースをあらためて調べた。薬物治療の前に遺伝子を調べ、変異がある場合は薬を変えれば突然死を予防できる可能性がある。 浅村教授によると、統合失調症などで薬物治療中の患者が突然死するケースは、県内でも毎年複数ある。解剖しても死因が分からないことが多いが、事件性がないとみられる場合は解剖自体がほとんど行われず、原因は不明だった。 精神疾患の治療に使う一部の薬が、心臓の筋肉の「心筋細胞」がカリウムイオンを出し入れするチャンネル(通り道)の働きを阻害し、致死性不整脈を起こしたりする「QT延長症候群」を誘発することは知られている。ただ、大多数の患者は服用しても無症状で、理由は分かっていなかった。 一方、このチャンネルをつくる遺伝子に変異があり、QT延長症候群を起こしやすい人もおり、同症候群を誘発する薬を使わないよう注意喚起されていたが、精神疾患患者の突然死との関わりは知られていなかった。 浅村教授らは、県内で過去10年間に精神疾患で薬物治療中に突然死し、解剖でも異常が見つからなかった10人について、血液などのDNA(デオキシリボ核酸)を詳しく調べた。その結果、6人でQT延長症候群の原因になる遺伝子の変異を発見。心筋細胞のチャンネルの働きを約30%低下させるとの報告がある変異だったという。 浅村教授らは、こうした遺伝子変異のある人がQT延長症候群を誘発する薬を飲み、チャンネルの働きが大きく阻害されて致死性不整脈を起こした可能性が高い、と結論付けた。研究成果は専門誌「ジャーナル・オブ・ヒューマン・ジェネティクス」に発表した。 浅村教授は患者の同意を得ることを条件に、「薬を処方する前に遺伝子の変異を調べ、変異がある場合は別の薬に替えれば突然死を予防できる可能性がある」と指摘。亀井研究員は「精神科の薬を飲み、QT延長症候群の症状が出ている人の遺伝子変異を調べて因果関係を明らかにしたい」と話している。(長野県、信濃毎日新聞社)
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