県内の金属加工や精密部品のメーカーなど約20社でつくる「EV(電気自動車)時代に向けた新技術研究会」がことし、「信州版EV」の開発に乗り出す。大手メーカーと競うのではなく、長野県らしさを前面に出して山岳観光向けや農林業向けなどに用途を特化させたEVを目指す。行政などとも連携し、県内のものづくり産業を活性化しようという狙いも込めている。 EVは構造がシンプルで排ガスも出ないため、大手のようにガソリン車と同等の走行性能を求めない車種なら、中小企業でも商品化できるとされる。研究会事務局の県テクノ財団アルプスハイランド地域センター(松本市)の川手修一テクノコーディネータは「環境に優しくデザインの自由度も高い。大手と競合する分野で争うのでなく、従来の自動車と違う新しい使い方を提案したい」と話す。 研究会ではこれまでに、クッキングヒーターを備えたキャンプ用EV、農作業用や除雪用のEV、高齢者や買い物弱者を支えるEVなどのアイデアも出ている。今後は、長野県の立地条件、地域産業と結び付いたEVの活用法などを検討し、構想をさらに具体化する方針だ。 事業化するには、産業政策やまちづくりの観点でもEVの位置付けを明確にする必要があるため、自治体などにも連携を呼び掛ける。開発の方向性が固まれば、会員企業の技術を生かして13年度中に試作を始めたいとしている。 同研究会メンバーで精密板金加工を手掛けるタカノ(松本市)の高野裕二郎社長は「観光や農業などに使える独自のEVができれば、信州のクリーンなイメージをさらに高められる。地域産業全体の底上げもできる」と強調。充電スポットの整備など、EVの利用促進に力を入れている松本市の平尾勇商工観光部長は「観光地内をゆっくり周遊するのに適したEVがあれば、観光振興の後押しになる」と期待を示している。 研究会に助言している日産自動車EV技術開発本部の広田幸嗣(ゆきつぐ)・技術顧問は「都会と異なる環境にあり、精密・電機産業が集積している信州だからこそ生み出せるものがあるはずだ」と指摘。「新しい発想を形にし、世界に発信してほしい」と話している。 同研究会は、自動車部品メーカーなども加わって11年度に発足。これまではEVの基本構造を学んだり、将来性を検討したりしていた。(長野県、信濃毎日新聞社)
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