餌をもらう代わりに天敵から守ってやるという「相利(そうり)共生関係」にあるアリとアブラムシが、実は相手を都合よく利用したり、だましたりして関係を有利にしようとしていることが、信大理学部(松本市)の市野隆雄教授(54)=進化生態学=や大学院生の遠藤真太郎さん(33)らの研究で分かってきた。市野教授らは、少しでも有利な立場を求めて進化する生き物のしたたかさが垣間見えると話している。 両者は、アブラムシが糖質に富む排せつ物「甘露」を餌として提供し、アリは見返りに寄生バチなどの天敵から守ってやる関係にある。アリがアブラムシを捕食することもあるが、食べ尽くすことはなく、アブラムシの数をどうコントロールしているかは謎だったという。 遠藤さんらによると、アリやアブラムシの体は種や巣ごとに異なるフェロモンの一種「体表炭化水素(CHC)」で覆われ、特にアリはその組成の違いで仲間を見分けている。研究では、アブラムシを単独で飼育するとCHCの組成はアリとかなり異なるが、アリと一緒に飼育すると同じ組成になると確認した。 遠藤さんは「アリは、甘露を提供したアブラムシを触覚で触るなどして自分のCHCを付けている」と指摘。アリはアブラムシの甘露をきれいに食べ、アブラムシにかびが生えないようにする“衛生サービス”も提供しており、「アブラムシが増えると世話も大変になる。目印(自分と同じCHC)のない個体を食べて間引いているのではないか」としている。 一方、アリと共生しているアブラムシの幼虫を単独で飼育すると、アリが付けたCHCは1回の脱皮でなくなるが、その後はアリと接触しなくてもCHCの組成が徐々にアリに近づき、やがて全く同じになった。このため、アブラムシがアリに捕食されないよう同じCHCを作って身を守っていることが分かったという。 共生関係にあるとはいえ、不要なアブラムシを食べてしまうアリに対し、付けられてもいないCHCを自分で作り出すアブラムシ。遠藤さんは「アリが都合よくアブラムシを利用し、アブラムシはアリをだますなど、相手を出し抜こうと進化している」とみている。 アブラムシのCHCは、共生するアリの種類によって変化することが分かっており、今後は相手に合わせて自在にCHCを作ることができるのかどうかなどを調べ、相利共生関係の全体像を明らかにしたいとしている。(長野県、信濃毎日新聞社)
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