心身の不自由な人らが農業をしながら共同生活を送る北安曇郡小谷村真木(まき)の「信州共働学舎」で、東京の映画製作会社ポレポレタイムス社がドキュメンタリー映画を撮影している。4日も山中を1時間半歩いてやっとたどり着く現地でロケ。豊かな自然の中で支え合って生きる人々を、1年間にわたって記録する。 共働学舎は、東京で教師をしていた宮嶋真一郎さん(90)が1974(昭和49)年、心の病などを抱え、社会の中でうまく生きられない人たちの生活の場をつくろうと開設。同村立屋(たてや)で畜産やパン工場を営み、真木ではコメや豆などを栽培しながら男女約40人が暮らしている。 「豊かさとは何か」をテーマに国内外でドキュメンタリー映画を製作している監督の本橋成一さん(73)は、ここ数年真木に通い、それぞれの能力やペースを大切にする農作業風景に触発され、映画製作を決意した。「日本は誰もが住みやすい本当の豊かな社会といえるだろうか」と、競争にせき立てられて適応できない人が疎まれがちな世の中に一石を投じたいと言う。 この日、本橋さんは、20~50代の男女5人がネギの花を摘む作業を撮影。テキパキ作業する人、一つ摘むのに数分掛かる人とさまざまな様子を丹念に追った。宮嶋さんの次男で同学舎代表の信(まこと)さん(60)は「速くても雑な仕事もある。遅くても丁寧な人がいて成り立つ作業がある」。形の違うピースが合わさってジグソーパズルができる―との父の言葉を紹介しながら、「ピースに替えはない。どれも平等で助け合うことが大事」と同学舎の思想を語った。 撮影は2月に始まった。春夏秋冬を通じて表情を変える小谷村の雄大な自然を背景に、学舎のありのままの暮らしを伝える構成だ。年内に撮影を終え、来年中の全国公開を目指すという。本橋さんは「余計な解説は付けず、映像だけで何が本当の豊かさなのか、感じてもらえる映画にしたい」と意気込んでいる。(長野県、信濃毎日新聞社)
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