参加の是非をめぐって国論を分けた環太平洋連携協定(TPP)交渉会合に23日、日本が合流した。県内農業関係者に依然として異論はあるが、参加に至った現実を踏まえ、重要品目の関税維持や、関税を引き下げる場合の猶予期間の確保など、影響を最小限に食い止めるための「条件」に関心を向け始めた農家もある。政府方針の重要5品目の関税維持は他国との調整で難航も予想され、県内関係者は危機感を抱きながら交渉の行方を見つめている。 「778%あるコメの関税がゼロになるのは切ない。適正税率に下げるまで5年や10年の期間が必要だ」。県農業経営者協会長のコメ農家荻原慎一郎さん(63)=東御市=は、TPP交渉参加に「基本は反対」としつつ、交渉にこう注文する。 日本が関税撤廃の例外化を目指す重要品目のコメなどで、現状の関税維持が難しいとすれば、段階的に引き下げる移行期間が必要と指摘。その間に政府が価格補償や後継者の育成、農家向け融資の条件緩和など支援策を考えるべきだとする。 黒毛和牛約600頭を育てる上高井郡小布施町の浅岡久志さん(52)は、交渉に臨む政府に「肉牛などの関税がなくなるとしても、いきなりゼロにしないよう主張してほしい」と要望。交渉が始まった現実を前に、「協定を結んだ場合を見据えて、政府や農家が対策を検討する次のステージに移るべきではないか」とする。 TPPをめぐり、県農協グループは6月、県内農林水産業の生産への影響額を試算。リンゴは2011年生産額の4割以上に当たる110億円が減るとした。飯田市座光寺のリンゴ農家、篠田治さん(61)は「交渉に参加すれば脱退は難しい。協定締結後の対策を考えた方がいい」とし、海外産流入に伴う果物単価の下落を補填(ほてん)する制度の充実などを政府に求める。 ただ、政府方針通り重要品目の関税維持を前提に交渉を進めるべきとの声は依然として強い。交渉参加に一貫して反対してきた県農協中央会の大槻憲雄会長は「主要5品目の関税はしっかり守ってほしい。国益を守れないなら、強い決意を持って交渉から撤退してほしい」と強調した。(長野県、信濃毎日新聞社)
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