長野地裁で21日に開かれた県建設業厚生年金基金の多額横領事件の初公判で、検察側は、業務上横領の罪に問われた同基金元事務長坂本芳信被告(56)が横領した手口などを、冒頭陳述や証拠調べで明らかにした。通帳管理が坂本被告1人に任されるなど基金のずさんな資金管理の実態が浮かび上がった。基金関係者らからは多額横領や投資に絡む巨額損失など同被告が関わったとされる一連の問題について、今後の公判での解明を求める声が上がっている。 冒頭陳述などによると、坂本被告は、基金の口座から現金を引き出し、年金などの積立金を生命保険会社に送金する業務を担当しており、横領の手口は、自分が着服する金を送金前に差し引く単純な方法だった。 検察側が明らかにした事件当時の同基金理事長の供述調書によると、基金の通帳は「金庫内にあり、鍵は坂本被告の机の中にあった」。この通帳を利用するには坂本被告の指示が必要だった。基金では2003年春以降、常勤理事が不在で、同被告が実質1人で資金を管理していたためだった。同基金は事件発覚後の10年11月から事務長以外に常勤の常務理事を置いている。 初公判で明らかにされた、基金職員らが捜査員に語った供述調書によると、当時、坂本被告が生命保険会社に書類を送る際、送金額を少なく修正するところを見た職員もいた。しかし、その職員は「何かしらの計算が行われたのだろうと思った」と供述。同被告は、基金口座から金を引き出すための払戻依頼書と、生命保険会社に入金するための振込依頼書を用意し、職員に金融機関で手続きをさせ、差額の金だけを自分で取りに行っていたが、この対応にも疑問を感じた職員はいなかった。 基金に加入する中信地方の建設会社の社長は初公判の内容を知り「坂本被告は許し難いが、事務局も甘かったことがよく分かった。緊張感が無い」と憤った。「それでも、損失のつけは加入企業に回ってくる。どうして年金資産消失にまで至ったのか知りたい」と話していた。(長野県、信濃毎日新聞社)
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