絶滅の恐れのある国特別天然記念物ライチョウの保護のため、ひなを専用ケージ(かご)に入れて生存率を高める手法について、環境省が南アルプスでも試験導入を検討していることが3日、分かった。ケージによる保護は、松本市と岐阜県高山市境の乗鞍岳(3026メートル)で昨年夏に行われ、効果が確認されている。4日に都内で開く学識者のライチョウ保護増殖検討会で話し合う。検討会で了承されれば、今年夏から秋にかけ設置場所を検討し、早ければ来年にも導入する考えだ。 環境省がライチョウの生息数についてまとめた過去の文献の資料によると、南アでは30年ほど前に289の縄張りを確認できたが、2000年代には約4割に減少。中でも北岳(3193メートル)の周辺では、1981(昭和56)年の63が昨年は9に激減した。ライチョウの餌になる高山植物も、ニホンジカによる食害や踏み荒らしが他の山域より深刻化しており、昨年11月の検討会などでは南アでの早期の対応を求める声が委員らから出ていた。 生息数はほかに、縄張りが784あった北ア、50あった御岳山はそれぞれ6割弱に減少。48あった乗鞍岳、10あった火打山・焼山は、ほぼ同数を維持しているという。一方、中央アルプス、八ケ岳ではいずれも絶滅したとされる。 ひなはふ化から1カ月の間に、悪天候で衰弱死したり、キツネなどに捕食されたりする事例が多い。このため、信州大の中村浩志名誉教授(鳥類生態学)や環境省などの研究チームは昨年7月、乗鞍岳でひなと親鳥計18羽を3種類のケージで保護。8月に放鳥後の9月半ばの調査で、ひなの生存率は約7割を維持した。自然のままで育ったひなの生存率は約1割だった。 乗鞍岳の実施箇所は、近くまで車道が通じる平らな場所。南アで取り組む場合、行きやすさや、ケージを置ける平らな場所があるか、拠点にできる山小屋が近くにあるか―といった点が課題になる。環境省野生生物課は「条件がそろう場所はそうはない。取り組めるかどうか可能性を探りたい」としている。 環境省は12年、種の保存法に基づき、ライチョウの生息状況の把握や生息環境の維持、改善などを盛った保護増殖事業計画を策定。検討会は、取り組みを具体化する実施計画を話し合っている。(長野県、信濃毎日新聞社)
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