イラクで深刻化している子どもの急性白血病患者について、極めて治りやすいタイプが少なくないことを、信大医学部(松本市)小児科のグループが世界で初めて遺伝子解析で突き止め、解析結果の一部を米科学誌で発表した。イラクでは治癒の見通しが付かないと、経済的理由などで治療を断念するケースも多い。今回の研究成果を受けてタイプの判別が進めば治療継続の決断につながり、抗がん剤の効果的投与などで命が助かる子どもが増えるとみられる。 グループは、同科の小池健一教授(62)とイラク人留学生のリカー・アルカザイル医師(43)、坂下一夫助教(47)ら。リカー医師が勤めていた病院を含む現地の5病院で採取した急性骨髄性白血病の小児患者134人分と、急性リンパ性白血病患者264人分の血液について、遺伝情報に関わる塩基配列の異常や遺伝子の束である染色体の「転座」と呼ばれる変異を調査。その結果、骨髄性の33%に当たる44人とリンパ性の12%に当たる32人が、極めて治りやすいタイプだった。 白血病の遺伝子検査は先進国では一般的だが、イラクでは混乱の影響などで行われていない。2007年からイラクの医療支援をしている信大グループは、血液を染み込ませて遺伝情報の長期保存や輸送を可能にする特殊な濾紙(ろし)に着目し、この濾紙から検査に必要なリボ核酸(RNA)を取り出す技術などを開発。現地で採取した患者の血液を設備のある信大に空輸し、遺伝子解析を行った。 リカー医師は、既に血液の提供を受けた一人一人の結果を現地の病院に連絡。「態勢が整えば実際の治療に直ちに役立てることができる」としている。 イラクの小児白血病については、湾岸戦争(1991年)やイラク戦争(2003年)で劣化ウラン弾が使われた南部地域などに患者が急増したとの報告がある。グループは劣化ウラン弾と白血病発症の関連についても遺伝子レベルで解析を急ぐ。小池教授は「春ごろまでには何らかの結論が出そうだ」としている。 今回の研究成果を踏まえ、信大とともにイラクを支援している認定NPO法人・日本チェルノブイリ連帯基金(松本市、鎌田実理事長)も、あらためて医療機器や医薬品輸送などの支援体制を強化する方針だ。(長野県、信濃毎日新聞社)
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